内臓脂肪が引き起こす健康被害

「最近なんだか貫禄がついてきた。昔のようにスラっとした体型に憧れるけど仕事も忙しいし、ある程度は仕方がないか…」と思っている中高年の方も多いのではないでしょうか。肥満は「見た目の問題だけ」ではなく、様々な病気を引き起こすことが分かっています。また、肥満には今、新しい考え方や治療薬も登場しています。今回は肥満と脂肪について知っていきましょう!

内臓脂肪と皮下脂肪あなたはどっち?

「体が重い…」と感じている方、体のどの部分がどのように太ってきましたか?実は体の中で特に脂肪が付きやすいのは2か所。内臓の周りの空洞部分と皮膚の下です。内臓の周りにつく脂肪は「内臓脂肪」、皮膚の下につく脂肪は「皮下脂肪」と呼ばれれています。実はご自身の脂肪が内臓についているのか、皮下についているのかは体型にも現れ、その特徴から内臓脂肪型の肥満は「りんご型肥満」、皮下脂肪型の肥満は「洋なし型肥満」とも呼ばれます。まずは、ご自身のタイプを簡単にチェックしてみましょう。

内臓脂肪と皮下脂肪で異なる病気のリスク!

内臓脂肪

お腹内部の空洞につく脂肪の総称です。腹筋の内側につくため、手で掴みにくいのが特徴。また、男性や閉経後の女性につきやすく、皮下脂肪に比べて落としやすい一方、蓄積されやすく、過剰に蓄積すると「生活習慣病」のリスクが高まります。

皮下脂肪

皮膚のすぐ下に付き、特に下半身につきやすいのが特徴。腹筋の外側に付くため手で掴むことができます。生活習慣病につながるリスクは少ないですが、蓄積し過ぎると、関節痛や、睡眠時無呼吸症候群を引き起こす可能性もあります。

内臓脂肪から始まるドミノ倒し

【簡単】内臓脂肪と肥満チェック

皮下脂肪とは違い命に関わる病気を引き起こす可能性がある内臓脂肪。年々お腹がポッコリ出てきたと感じる人も多いでしょう。それは加齢と共に基礎代謝が低下したため。若いころと同じような食生活を送っていると消費しきれなかったエネルギーがまず最初に体につきやすい内臓脂肪として蓄積されます。そんな内臓脂肪がどのくらい溜まっているのかを自宅で簡単に確認することができます。次の項目をみてみましょう。

内臓脂肪は腹囲が男性85センチ以上女性90センチ以上

内臓脂肪は、断面積が100㎠以上蓄積すると、様々な病気を合併しやすいことが明らかになっています。また100㎠以上に相当する腹囲は男性が85㎝、女性が90㎝以上です。これが基準となり、これ以上だと内臓脂肪型肥満であると判断されます。
※腹囲の計測は、おへその高さで地面と水平に測定しましょう。

BMIが25以上で肥満35以上で高度肥満

BMIとは国際的に用いられている肥満度を表す指標です。体重㎏÷(身長m)²計算式で求められます。身長はセンチメートル(cm)ではなくメートル(m)で計算するので、要注意。

内臓脂肪がもたらすデメリット

過度に蓄えられた内臓脂肪は命に関わる疾患を引き起こすだけではなく、次のような健康を害したり、清潔さに関わる症状を促進する可能性もあります。

食欲が制御できなくなる

内臓脂肪が増えすぎると脳の視床下部に食欲を抑えるホルモンがうまく作用せず、食欲が抑えられません。食べ過ぎが引き起こされ、ますます太ってしまうという悪循環に。

便秘を引き起こす

内臓脂肪が蓄積すると物理的に内臓が圧迫され、腸が消化吸収を行うための「ぜん動運動」をするスペースが制限され便秘を引き起こしてしまいます。

加齢臭を引き起こす

加齢臭の原因となるのが「ノネナール」という血中の脂肪が分解されてできる成分ですが、内臓脂肪が多くなると血中の脂質が増えて「ノネナール」の量も増えます。

皮膚の炎症を引き起こす

体内で過剰に作られる炎症性物質が原因で皮膚炎となりますが、内臓脂肪型肥満の脂肪細胞から作られる炎症性物質も、皮膚炎の発症や悪化に関与すると考えられています。

肥満症とは?

「肥満症」という言葉を聞いた事がありますか?「肥満」とは、「太っている状態」を指す言葉で、病気を意味するものではありません。しかし、「肥満」に伴って健康を脅かす合併症がある場合や、合併症を引き起こしやすい内臓脂肪型肥満である場合には、「肥満症」であると診断され、医学的な減量治療を受ける対象となります。肥満と肥満症の違いについて詳しく見ていきましょう。

肥満と肥満症の判断基準

BMIが25以上で、かつ次の肥満による「11の健康障害」が1つ以上あるか、健康障害を起こしやすい「内臓脂肪型肥満」(周囲が男性85㎝以上、女性90㎝以上)である場合は「肥満症」と診断されます。減量による医学的治療が必要な状態です。またBMIが35以上の場合、「高度肥満症」となります。

11の健康障害

糖尿病(2型)

インスリンが十分に働かず、血糖値が高い状態が続く病気。糖尿病神経障害、糖尿病網膜症、糖尿病腎症の3大合併症を引き起こすリスクが高まる。

脂質異常症

血液中の脂質の値が基準値から外れた状態。動脈硬化を促進し、放置すれば脳梗塞や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患をまねく原因となる。

高血圧

動脈内の圧力が慢性的に高い状態。脳卒中、狭心症、心筋梗塞などの危険な病気を起こしやすくなる。

高尿酸血症・痛風

血中の尿酸値が高い状態。この状態が続くと関節内に尿酸の塊ができ、痛みを伴う「痛風」を引き起こす。

狭心症・心筋梗塞

どちらも心臓に血液を送る冠動脈の血流が悪くなる病気。突然死の原因になるため注意が必要な疾患。

脳梗塞

動脈硬化の進行によって、脳の血管が詰まったり、細くなったりして血流が途絶え、十分な酸素やエネルギーが供給されず脳細胞が壊死してしまう病気。

非アルコール性脂肪性肝疾患

過食・運動不足・肥満(特に内臓脂肪型)・糖尿病・脂質異常症などが原因で、肝臓に脂肪がたまった状態。肝硬変や肝がんに進行するリスクが高くなる。

月経異常・女性不妊

月経異常とは生理の出血が多すぎたり少なかったり周期が不安定、無月経の状態。また、子供を望むにも関わらず1年以上妊娠しない状態の事。

睡眠時無呼吸症候群

睡眠中に呼吸が止まる状態が繰り返し起こる病気。酸素が十分に取り込めず、心臓が過剰に働いて不足分を補おうとするため、心臓や血管に負担がかかる。

運動器疾患

変形性関節症(膝・股関節)、変形性脊椎症や手指の変形性関節症など軟骨と周囲の組織の損傷を引き起こす慢性疾患。痛みや関節のこわばりなどが起こる。

肥満関連腎臓病

肥満が原因で腎臓に障害が起き、腎機能が低下する状態。初期には自覚症状がなく、悪化すると透析や腎臓移植などを行う場合も。

また11の健康障害に含まれている生活習慣病は、内臓脂肪の蓄積によって起こりやすくなり、1つ起こるとドミノ倒しのように引き起こり、やがては重篤な病に繋がる可能性があります。これが、内臓脂肪は命に関わる病気を引き起こす「怖い脂肪」だと言われるゆえん。内臓脂肪が生活習慣病を引き起こすメカニズムは、内臓脂肪は様々な生理活性物質(ホルモンに類似した物質)を分泌するため。

生理活性物質には、生活習慣病を招く動きがあるものと、防ぐ働きがあるものがありますが、肥大化した脂肪細胞からは、生活習慣病を招く物質の分泌が多くなり、逆に防ぐ物質の分泌は減少してしまうのです。その結果、内臓脂肪型の肥満によって生活習慣病につながってしまうのです。

ドミノ倒しが一度始まると、後になればなるほど止めるのが困難に…。
このドミノを倒さないことが重要です。

自宅でレッツトライ!内臓脂肪改善法

放っておくと重篤な症状を引き起こす肥満症。そんな肥満は日々の小さな生活習慣が積み重なったもの。ですが逆を言うと生活習慣をほんの少し変えるだけで、体に変化が起こるもの。特に内臓脂肪は落としやすい脂肪。生活に取り入れやすく効果的なちょっとした痩せる習慣をご紹介します。

食事は野菜から食べよう

野菜から食べる「ベジファースト」という言葉を聞いた事がある人も多いでしょう。人間は血糖値が下がると空腹を感じ、食べると血糖値が上がって空腹が収まります。ですが、短時間の早食い・ドカ食いは血糖値の急上昇を招き、それを下げるため「インスリン」が多く分泌されます。

すると糖が細胞内に取り込まれるため、体重が増加します。さらにその後は血糖値が急降下するため、さっき食べたばかりなのに、またすぐに空腹になってしまう…という悪循環に!そこで食べる順番を「野菜→肉や魚→ごはん」の順に変えてみましょう。

野菜とはサラダだけではなく、おひたしやスープなどにも含まれます。これらの野菜の水溶性食物繊維が水に溶け、その後に食べた物の吸収が穏やかになるため血糖値が緩やかに上がって緩やかに下がり、空腹が長時間抑えられます。

食べる順番

  1. 野菜類
  2. たんぱく質
  3. 炭水化物

ゆっくりよく噛んで食べることも大切です。そうすることで消化を助け、満腹感も得られます。

ながら運動を取り入れよう!

忙しい人にとっては、わざわざ運動のためだけの時間を作り出すのは一苦労。ですが、一日10分の軽い運動でも積み重なれば体に変化をもたらします。歯磨きをしながらかかとの上げ下ろしをする、エレベーターではなく階段を使う、洗濯物を干しながらスクワットをする、テレビを見る時は踏み台昇降をする、お風呂に浸かりながらストレッチやマッサージをするなど、生活時間を変えずにできる「ながら運動」を続けてみましょう。

内臓脂肪を減らし肥満症を改善していくために、まずは小さな生活習慣を見直し、体重をゆっくり落としていきましょう。それが、肥満が招く11の健康障害を防ぎ、一生続けられる健康的なダイエットです。