目と舌で楽しむ「エディブルフラワー」

バラ、パンジー、マリーゴールド…四季それぞれに美しい花が咲き誇ります。その中に食べられる花があるなんて不思議ではないでしょうか。「花なんてどうやって食べるの?」「おいしいの?」と思われるかもしれませんが、食べられる花は意外にも身近にあるのです。

エディブルフラワーってどんな花?

食べられる花は、日本では1980年代から「エディブルフラワー」の名前で広く出回るようになりました。大きな生鮮食品店では、野菜やハーブ類の棚に併せて置かれていることもあります。

一番の特徴は見るも鮮やかな色ですが、花びらにビタミンCが豊富に含まれるバラのように、栄養と美しさを兼ね備えたものもあります。

なぜ花が食用になるのでしょうか?食用のものは野菜を生産するのと同様、農林水産省が定めるガイドラインに基づき、食品として安全面に配慮して栽培されます。観賞用の花とは種や苗、使われる農薬や生育環境が異なりますので、花屋で売っている花をそのまま食べて良いわけではありません。必ず食用として販売されているものを利用しましょう。そして天然の毒性を持つ花にも注意が必要です。

古くからある花を食べる文化

じつは、花を食べるのは新しい習慣ではなく、古くからある文化なのです。古代ギリシャの時代からバラを料理や美容に用いていた歴史があり、詩や壁画にも残されるほどでした。約2800年前のアメリカ原住民が、砂漠の花を食べていた跡が残されているという研究もあるそうです。

日本でも、菜の花をお浸しにしたり、桜の塩漬けを桜茶や和菓子に用いたりと、なじみ深いことでしょう。春先のほろ苦いふきのとうも食べる部分は花ですので、食習慣に根付いたエディブルフラワーと言えます。

新潟県では、江戸時代頃から紫色の食用菊「かきのもと」が農家の庭先などで栽培されており、お浸しや酢の物として供されてきました。ポリフェノール類が豊富との分析もあり、美しさだけでなく栄養面も見抜いた先人の知恵が伺えます。

桜の塩漬けは春の香りをいつでも楽しめて、祝いごとにも欠かせないものです。

食べる花の楽しみ方

サラダの上に飾り付けするのが一番使いやすいでしょう。グリーンが基調の水菜やレタス、カイワレのサラダにエディブルフラワーを飾れば、まさに食べられる花畑になります。

暑い日が近づいてきたら、製氷皿に水と一緒に入れて凍らせて、花のアイスキューブを作るのも手軽です。グラスに注いだ飲み物に浮かべれば、普段のお水もおもてなし感が上がりますし、お酒のロックに入れても良いでしょう。

お菓子作りが得意な方は、完成したケーキやクッキーに添えるだけでも楽しめますが、「ステンドグラスクッキー」に挑戦してみましょう。クッキーをリング状に焼いて粗熱を取った後、リングの穴に溶かした製菓用の飴とエディブルフラワーを流し込みます。飴が固まったら、ガラス細工のようなクッキーの出来上がりです。

まだまだ、普段使いの野菜のようには売り場が目立っていないですが、通信販売などでも手に入りますし、まずは1輪から気軽にお皿にのせれば、使い道がどんどん広がるかもしれません。見た目にも明るいエディブルフラワーで、雨が続く季節も、気持ちと食卓に花を咲かせましょう。

押し花状のエディブルフラワーを利用し、クッキーを手作りしてみました。大きな生鮮食品や通信販売で購入することができます。

花が薬に!?生薬に使われる花

特有の成分を含み、生薬として用いられる花もあります。昔から健康に良いと言い伝えがある…どころか、現代のれっきとした薬として、厚生労働大臣が定めた医薬品の規格基準書『日本薬局方』にも記載されています。食べられるだけでなく薬効もあるとは、花のパワーは計り知れません!

菊花(キクカ)

2000年以上前から薬用として栽培されていたとも言われます。花にはフラボノイドの一種のルテオリンなどが含まれ、これを乾燥してできる生薬は、目に元気をつけて良く見えるようにする薬効があります。

紅花(コウカ)

花弁を乾燥させたものは「コウカ」と呼ばれ、血行を促進し、うっ血を取り除く生薬として用いられます。薬用意外にも花からは天然色素、種からは食用油が採れたりと、活躍の幅が広い植物です。

美しい花には毒がある…?危険!食べてはいけない花

農薬に注意を払い、きれいな土壌で育てればどんな花でも食べられる、というわけではありません。こちらの植物は毒になる成分が含まれているため、絶対に食べないでください!

アジサイ

腐食効果を狙って料理に添えられた葉を、誤って食べて中毒になったケースもあります。民間療法で花を解熱剤とした歴史もあるそうですが、花にも葉と同じ毒の成分が含まれるので危険です。

ツツジ

子どもの頃花をつみ、蜜を吸ったことはありませんか?花だけではなく蜜にも毒があり、ツツジが多い国ではミツバチを通して蜂蜜に毒が移行したことも。子どもの遊び程度のごく少量であれば心配することはありません。

カラーリリー

花束や切り花に存在感を示す白い花。結石の成分でもあるシュウ酸カルシウムが含まれ、敏感な人は触っただけでも腫れることがあります。口に入れると水疱ができたり鋭い痛みを感じたりします。

スズラン

16世紀のヨーロッパでは薬としても使われましたが、裏を返せば毒にもなるということです。心筋に作用する強力な成分が、特に花と根茎に含まれています。

食卓を彩る小さな貴婦人たち

観賞用としてよく見かける花も食用になるものがあります。ただ、食べるための栽培には、専用の種苗を使い、土壌や肥料、農薬に細心の注意が必要です。

バラ

見た目の豪華さと香りの良さから、ケーキの飾りやジャム、ハーブティーにも利用されます。グラムあたりでは夏みかんと同程度のビタミンCが含まれており、美肌が気になる方の心をくすぐります。

パンジー

花の色が鮮やかで、黄色や紫など多彩な種類があります。生クリームを使ったケーキやタルトの白地にぱっと目をひきますが、風味にくせがないのでどんな料理でも味を邪魔しません。

ビオラ

パンジーの仲間ですが、小ぶりな花が特徴です。特に紫系の花色には品があると好まれており、落ち着いた雰囲気を出したい時に向いています。

キンギョソウ

花びらやがくが柔らかく、味や香りが淡白なため、どんな料理にも合わせやすい人気の花です。その名の通り金魚に似た形の花ですが、英語では「スナップドラゴン」という名で呼ばれており、竜に見立てる発想も面白いですね。