紅葉だけじゃない自然の美!秋の七草

「秋の七草」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。「春の七草」といえば無病息災を祈り、正月料理で疲れた胃腸を休めるものとして馴染み深いですが、実は秋にも七草があることはあまり知られていません。秋の七草はその美しさを鑑賞したり、初秋の訪れを知らせてくれる、万葉集の時代から身近にあった植物です。

歌人が詠んだ万葉植物

秋の野に 咲きたる花を
指折り かき数ふれば
七種(ななくさ)の花

萩の花 尾花葛花撫子の花
女郎花 また藤袴
朝貌(あさがお)の花

こちらは奈良時代の歌人「山上憶良(やまのうえのおくら)」が詠んだ2首の万葉歌。「秋の野原で花を数えたらいい花が7種あったよ」という意味です。この歌が始まりとなり、萩(ハギ)、尾花=薄(ススキ)、葛(クズ)、撫子(ナデシコ)、女郎花(オミナエシ)、藤袴(フジバカマ)、朝顔=桔梗(キキョウ)が七草として親しまれるようになったとされています。

多くは、日本各地の野山に野生しており漢方生薬などで薬用としても使われることがあります。「秋の七草」は、冬期到来に向けて体調を管理するための植物が主となっており、奈良時代の人々はこれらの植物の力を、経験からよく知っていたのでしょう。

七草の持つ薬効

風邪や発熱に

小さい頃、風邪をひくとほのかに甘い「葛湯(くずゆ)」を飲んでいたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。とろみのある飲み物で、体が温まり、消化にも良いために、胃腸不良などの際に使われてきました。そして葛の根を乾燥させた「葛根(かっこん)」は、解熱や鎮痛、熱のある風邪、筋肉のこわばりにも効果的。有名な漢方処方「葛根湯(かっこんとう)」の主薬であり、身近な薬草の代表格です。

炎症や利尿に

ナデシコの全草を乾燥したものや種子は生薬として消炎、利尿作用があるとされています。またオミナエシも根と全草を乾燥した生薬「敗醤(はいしょう)」として、民間的に利尿や消炎、化膿止めに用いられてきました。醤油が腐ったような臭気が生薬名の由来。さらに腸炎などによる腹痛、下痢、肝炎、腫痛にも活用されます。

咳や痰・鎮痛に

キキョウの根の乾燥品は、咳を鎮め、痰を喉から出しやすくする生薬の代表です。さらに、鎮静、鎮痛作用もあるため、咽の痛みや気管支炎、扁桃腺炎などに使用。韓国ではこの根をトラジと呼び漬物にします。ゴボウのような歯ごたえのキムチが人気。このように生薬にも食用にもなる貴重な秋草です。

女性のめまい

ハギは根を煎じて飲むと女性のめまいやのぼせを鎮める効果があると言われます。葉を乾かして茶の代用とし、種子を粉にしてご飯に混ぜて食用にされてきました。

七草の覚え方!頭文字で作文

七草は「お好きな服は?(おすきなふくは?)」という語呂合わせがあります。これはオミナエシ、ススキ、キキョウ、ナデシコ、フジバカマ、クズ、ハギの頭文字をとった覚え方。

他にも「ハスキーなお袋(おふくろ)」「大きな袴(はかま)はく」などいくつか語呂合わせのパターンがあるので、ご自身が覚えやすいものをご活用ください。自作をしてみても面白いですね。

また、五・七・五・七・七のリズムに合わせて「ハギ・キキョウ/クズ・フジバカマ/オミナエシ/オバナ・ナデシコ/秋の七草」と覚える方法もあります。

秋の七草と花言葉

古くから鑑賞されてきた七草を覚えて見つけることができれば、秋の散策もぐんと楽しくなるでしょう。ぜひ皆さまがお住まいの地域でも探してみてください。

  • 萩(ハギ)
    葉の形は楕円形で、蝶に似た形の花をつける植物です。花は夏から秋にかけて赤紫色や白色に咲きます。ほとんどがヤマハギを指しますが、イヌハギなど他にも多くの種類があります。

【花言葉】思案、内気、前向きな恋、柔軟な精神

  • 桔梗(キキョウ)
    夏の着物にもよく描かれる桔梗。茎の上に風船のように膨らんだ蕾が開いて星型の青紫の花を咲かせます。その形の良さから明智光秀など多くの武将の家紋にも用いられました。

【花言葉】清楚、気品、誠実、優しい温かさ

  • 葛(クズ)
    根から採取したでんぷんがくず粉になり、葛湯や葛餅などで親しみ深い植物。葛の繊維は布を織ったり襖や表装地にも使われ、丈夫なつるは籠を編むために昔から重宝されています。

【花言葉】活力、根気、芯の強さ、恋のため息

  • 藤袴(フジバカマ)
    花の色が淡紫色で、弁の形が袴に似ていることからこの名前が付けられました。乾燥させると桜餅の桜葉と同じ良い香りがするため、湯に入れたり、洗髪や香水にも用いられます。

【花言葉】遅延、躊躇、思いやり、優しい思い出

  • 女郎花(オミナエシ)
    恋に破れて身投げした女が脱ぎ捨てた山吹色の衣が、この黄色い花になったという伝説がある植物。優雅で美しい花として古代の人に親しまれ、多くの歌や句が詠まれています。

【花言葉】美人、親切、心づくし、約束を守る

  • 尾花(オバナ)
    ススキの別名。ススキの穂が動物の尾に似ており、徐々に色が白くなって花のように見えることから名付けられたと言われています。以前は、すだれや茅葺き屋根の材料に使われました。

【花言葉】勢力、生命力、隠退、悔いなき青春

  • 撫子(ナデシコ)
    愛児を失った親が、その子の形見として撫でたことが由来。日本女性の代名詞「大和撫子」の元であり、その美しさは清少納言が「枕草子」に、草花の中で第一級品であると書いたほど。

【花言葉】純愛、無邪気、思慕、貞節、才能