菌の世界へようこそ!不思議な生態

菌類と聞くと小さなカビを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。実はカビだけではなく、キノコや酵母なども菌類に含まれています。森や山では朽ちた木や動物の糞、腐葉土に菌糸(糸状の細胞)を伸ばして栄養を吸収する種もいるため「自然界の掃除屋」と呼ばれることも。そんな菌類の知られざる生態に迫ってみましょう。

キノコは菌糸の塊

キノコは糸状の菌糸が集まって塊状になったもの。例えばシイタケを縦に裂いてみると柄の部分が繊維状で菌糸がぎっしりと並んでいる様子を見ることができます。キノコで作られた胞子が落ちて発芽すると、菌糸を伸ばし、落ち葉などの栄養を吸収してキノコに成長。そうして増殖するため、自然界では群生して存在している種類も多いのです。

動き回る粘菌

粘菌(ねんきん)はキノコやカビとも違い、姿形をどんどん変えていく奇妙な菌です。「変形菌」とも呼ばれるアメーバの仲間で、バクテリアを食べながら動き回り、驚くことに1時間で数ミリ、速いものでは1時間に数センチも移動します。単細胞生物のため1つの細胞のまま成長し、やがては木の表面を覆ってしまうほど巨大化。また、未熟な状態は鮮やかな桃色や朱色なのに、成熟すると錆のような暗褐色に変色する種もいます。同じ種でも出会うタイミングによって違う表情を観察できる非常にユニークな菌なのです。

変形菌には「ウツボホコリ」のように細い柄に球体が乗っているような形も存在します。主に枯れ木や倒木などに生息していますが、胞子を飛ばして増殖をしている種は街中の公園で出会える場合もあるので、探してみるのも面白いかもしれません。

カビの有用な働き

一般的にカビというと嫌われ者のイメージを持っている人も多いのではないでしょうか。しかし私たち人間に無害なもの、むしろ発酵を助けてくれるカビもたくさんいます。

例えば、麴菌(コウジカビ)は、でんぷんを糖に分解するアミラーゼなど様々な酵素を生成します。酵素のはたらきによって、素材をやわらかくしたり、味噌や醤油、日本酒などの旨みや甘味を引き出したりと働き者。日本に発酵食品が豊富な理由は、湿度が高い気候のため菌が働きやすい環境だからだと考えられています。
またミカンや餅などに緑色で現れるアオカビは、もし食べてしまうと有害な場合がありますが、ブルーチーズなどのチーズ作りでは欠かせない有用な菌です。

発酵で大活躍の酵母

酵母は糖をアルコールと炭酸ガスに分解する菌のことです。植物や樹液、野菜や果物の表面、空気中など、自然界のあらゆるものに生息し、つるりとした卵形で体の一部から芽を出して増えていくのが特徴。「発酵のもと」とも言われ、パンやビール、ワインなどの食品を作る工程で活躍します。

驚きの多様性!珍奇な姿の菌類たち

菌類は、陸上はもちろん、土壌や地下そして海洋環境に暮らしている種類もいます。現在知られているだけでもその数なんと約9万7千種。その中でも個性的な菌類をご紹介します。

カメムシタケ

冬眠のために地中にもぐったカメムシの体内から発生するキノコの一種。寄生して体を養分に育ちます。

キッタリア

オーストラリア、ニュージーランドなどの南半球で、ナンキョクブナの枝や幹のみに寄生する珍しい菌類。

タケハリカビ

カビの中には生きたキノコに寄生するものがあります。写真はタケハリカビの一種。キノコの傘に毛が生えたような姿になります。

エダナシツノホコリ

じめっとした場所で暮らす粘菌の一種で、苔や腐木の上を探すと白い絨毯のように群生しているのが見つかります。

水虫の原因はカビ?

水虫の原因である「水虫菌」、その実態は白癬菌(はくせんきん)というカビの一種。もともとは土の中に住んでいましたが、進化して人の皮膚の最外層の成分であるケラチンを栄養として繁殖するようになりました。水虫は人からうつる場合があるため、足拭きマットなどの共用はできるだけ避けましょう。そして指の間まで石鹸で丁寧に洗って、清潔に保ち、自分の足に合った通気性のよい靴を選ぶことが大切。一日履いた靴は湿気を多く含むため、数足を毎日履き替えることがオススメです。

キノコの傘の秘密

一般的なキノコの傘の形は、下側が平らで上側が丸く盛り上がった構造をしています。この傘の形は飛行機の羽と同様の断面構造で、下から上へ持ち上げるように「揚力」が働きやすい形。胞子を形成する平らなヒダ側に上昇気流が生じる構造となっており、胞子を出来るだけ遠くまで飛ばすためにキノコが編み出した「傘」の形状なのです。