人とにおいの不思議な関係

季節を感じるにおいといえば、何を思い浮かべるでしょうか?今の時季では、夏の終わりとともに金木犀や銀杏のにおい、木々や葉っぱのにおいを感じますよね。
香りで、ふと懐かしい思い出がよみがえる経験をしたことがある方もいるかもしれません。では、においが人間に与える影響とはどのようなものなのでしょうか。今回は、においに秘められている可能性にせまります。

日々感じているにおいの正体とは?

においは五感のひとつである「嗅覚」で感じる感覚です。目には見えませんが、その正体は「化学物質」。五感のうちの嗅覚と味覚は、化学物質の刺激によってもたらされる感覚で「化学感覚」と呼ばれることもあります。

このにおいを持つ物質は、諸説ありますが約10万から40万種類とされ、人が感じ取ることができるにおい物質は1万種類程度であると言われています。

情報源であるにおいを感じる仕組み

鼻の中には、においのセンサーである嗅上皮(きゅうじょうひ)という部分があります。ここで分泌される嗅粘液に、においの分子が溶け込み、結合。嗅細胞はにおい分子の情報を電気信号に変え、神経繊維を介して脳の嗅球(きゅうきゅう)へと伝えるのです。

すると嗅球に伝達されたにおいの情報はさらに大脳嗅皮質へと伝えられ、においの識別、認知、記憶など様々な反応に結びつきます。

上の図の中心にある水色の部分が「嗅球」。鼻の奥では、絶えずにおいを伝達する働きが行われています。しかし、嗅細胞へにおいの刺激が入り続けると、においを伝達するサイクルがうまく回らなくなり、においの感じ方が鈍くなります。これが「においに慣れる」という現象です。

においで遺伝子レベルの相性が決まる!?

すれ違った時や近くにいる時に、異性のにおいが気になった経験はありませんか?実は異性のにおいの好き嫌いは、遺伝子レベルの相性の良し悪しと深い関係があることがわかっているんです。

HLA(Human Leukocyte Antigen 人白血球抗原)と呼ばれる遺伝子があり、人は自分とかけ離れたタイプのHLA遺伝子を持つ異性のにおいを「いいにおい」と感じます。別名「恋愛遺伝子」とも呼ばれ、HLA遺伝子がかけ離れている異性との方が健康で丈夫な子孫を残すことができるとも言われるほど、重要な役割を担っています。

では、嫌いなにおいの異性が香水をつければいいにおいになるのでしょうか?答えはNOです。体臭と香水が混ざり合って余計に嫌なにおいだと感じてしまうのだとか。香水では遺伝子の相性はごまかせないということですね。

また、嗅覚は記憶を司るという特性上、一度不快と感じたにおいは脳に強くインプットされてしまうため、恋愛関係問わず印象を大きく左右する注意すべきポイントでもあると言えるでしょう。

地獄に突き落とす娘の言葉「お父さん…くさい!」

「お父さんと洗濯物を一緒にしないで」「近寄らないで」と言われ、傷ついた経験はないでしょうか。悲しいことに「大きくなったらパパと結婚する!」と言っていた娘が中高生になったら父親を邪険に扱うようになり、大人になってもそのままギクシャクした関係が続いている、という家庭も多いようです。

しかし、これは大人になる成長過程で女性が持つにおいを嗅ぎ分ける本能が働いている状態。上でもお話したように、人は自分と似ていない遺伝子を持つ相手のにおいを好ましく思いますが、反対に遺伝子が同じ父親のにおいは「臭い」と感じてしまう傾向にあるようなのです。

つまり、こういった反応はむしろ成長の証と喜ぶべきですが、なかなかにつらいもの…。この記事をきっかけに少しずつ前向きな思い出になっていくことを願っています。

懐かしいにおいとよみがえる記憶

このように、においを求めるのは本能的な反応であり、一度感じ取ったにおいは記憶に残されるということがわかりました。そして「あるにおいを嗅ぐと昔のことを思い出す」現象をほとんどの人が経験したことがあるでしょう。実は、においと記憶が結びつくその訳は私たちの脳の仕組みと関係がありました。

先程の話にあったように、においの分子は大脳へと伝えられ様々な反応へ結びつくようになっていますが、実は五感のうち嗅覚だけが直接的に記憶を司る海馬へ信号を送ることができると言われています。

海馬は記憶の保管庫のような役割を持っているため、においを察知するとほぼ同時に該当する記憶を見つけ出し、その時に感じた喜怒哀楽や好き嫌いの感情までもが呼び起こされるという仕組みなのです。

このようなにおいと記憶が結びつく仕組みは「プルースト効果」と呼ばれています。この由来は、フランスの作家マルセル・プルーストの「失われた時を求めて」という小説の中で、主人公がマドレーヌを紅茶に浸した際、その香りで幼少時代を思い出す場面があり、その描写が元になっているようです。

香りに秘められた数々のパワー

心身の不調を和らげる方法のひとつとして、昔からアロマ(芳香)が用いられてきました。

アロマと一口に言っても世の中には様々な種類の香りが存在します。香りによって期待できる効果は異なり、リラックス効果や集中力を高める効果など目的ごとに使い分けることがポイント。近年では、アロマテラピーや心理学などの分野で認知症の予防・改善に関する研究も行われているようです。

アロマを手軽に取り入れる方法としては、室内や寝具に吹きかけるスプレータイプのものやアロマオイルを数滴染み込ませて香りを楽しむアロマストーンなどがあります。

雑貨店やインテリアショップなどで販売していますので気になった方はぜひチェックしてみてください。

心と体を癒やすおすすめアロマ3選

フローラル系

花から抽出したフローラル系の香りは、その名の通り美しく咲く花をイメージさせる優雅な香りが特徴。甘く華やかな香りが女性に人気の種類です。リラックスしたい時、気分を上げたい時などに効果が期待できます。

【おすすめアロマ】
ラベンダー・ゼラニウム・ローズ・ジャスミン

シトラス系

万人受けするナチュラルで爽やかな香りが魅力の柑橘系。アロマ初心者の方におすすめで、アロマ選びに迷った時に試してみてください。明るく前向きな気持ちになりたい時などに良いでしょう。

【おすすめアロマ】
グレープフルーツ・オレンジ・レモン・ベルガモット

ウッディ系

まるで森林にいるような心地よい気分にさせてくれる樹木系の香り。新鮮で清潔感のある香りは呼吸を深くし、心を落ち着かせる効果が期待できます。気持ちを安定させたい時、一息つきたい時にぜひ取り入れてみてください。

【おすすめアロマ】
ヒノキ・プチグレン・ローズウッド・シダーウッド